ものさしが来た日
ものさしが来た日のことを、ときどき思う。
測るだけ
ものさしは、やさしい顔で言った。 なにも奪わないよ。なにも禁じないよ。 ただ、きみがどれだけできるか、測ってあげる。
わるいことは、なにもない。 だから、ぼくらは、うなずいた。
数のほうを
ものさしは、跳ぶ子を測り、覚える子を測り、 数を告げた。この子は7、この子は3。
はじめは、ただの数だった。 でも、くりかえすうちに、 ぼくは、いつのまにか、 数のほうを、その子だと思うようになっていた。
あの子は3の子。この子は7の子。 そう呼んだ時にはもう、 その子を、見終えた気になっていた。
来る前には
でも、ふしぎだ。 ものさしが来る前、 この教室に、7も、3も、いなかった。
跳ぶ子がいて、覚える子がいて、 ただ、笑う子が、いただけ。
「できる」も「できない」も、 ものさしといっしょに、 生まれてきたのかもしれない。
測られないもの
測ることが、わるいわけじゃない。 区切って、数えて、たしかめて。 それは、たぶん、いる。
ただ、忘れないでいたい。 その子の、いちばん大切なところは、 どのものさしにも、まだ、測られていないということを。
名前を呼ぶと、ふりむいて、笑う。 その笑顔は、まだ、測られていない。